中医臨床76号・留学生からの便り
李世珍先生は「臨床経穴学」の著者であり、日本でも知られている老中医の1人です。私も数年前にこの本を買い求め、今なお読んでいます。私は三代目の鍼灸師の家で育ち、資格を取って8年余りになりますが、中医学のなかに私をひきつけるものがあり、現在は上海に1年間の留学の最中です。留学の終わりが見え始めて頃、李先生に会ってみたくなりました。先生の著書や少数穴治療にずっと魅力を感じていたからですが、上海での鍼灸事情に満足できずにいたのも動機のひとつです。
それで私は先生に不躾にも「先生の臨床が見たい、勉強がしたいのです」と手紙を書いて送りました。するとすぐさま先生から、快く「私の所に来てください」と返事が来たので喜んですぐに南陽に行ったのです。
李先生の住む南陽市は河南省の南に位置し、上海から列車で約21時間のところにある街です。張仲景の生誕の地でもあり、街の中には医聖堂と呼ばれる張仲景の墓があったり、張仲景医院もあったりします。
李先生は70歳になった今も南陽市の市立中医医院と中医学院の附属医院で、臨床の最前線で頑張っておられ、まさにその姿は精気未だ衰えずといったところです。私は1日中先生に付いて過ごしたのですが、私が南陽に行った時期に急に気候が変化して寒さがつよくなり、患者もあまり来なくなりました。そのため臨床見学はあまり多くはできなかったのですが、これもチャンスだと思って、先生に伝統医学はどのように学べばいいのか、どう応用すればよいのかなどと質問をぶつけてみました。もちろん本を読んで、すばらしい先生だと思っているわけですから質問するんです。そんな質問のひとつにたいして先生は、こう答えたことがあります。
「わからない、経験がないのでわからない」
私は、この短い言葉に、ああ非常にすばらしい先生だなぁと感動しました。すると、どうしても先生の教えを乞いたいという思いがわきあがり、興奮して 「来年もう一度先生のところで勉強させてください」と言ってしまったわけです。先生は「いいよ!来年ね! おいで!」といってニッコリ微笑んでくださいました。
私が南陽にいたのは、わずかな期間でしたが、本物の先生に会えたという喜びは大きいものでした。上海で充たされなかった部分が埋められ高揚した気分で上海へ戻りました。
李先生との出会いも、中国語を私に教えてくれた友人の楊愛麗さん、先生の連絡先を教えてくださった東洋学術出版社の山本勝曠氏、南陽で常に私を助け支えてくれた学友の張海峰・張海涛・劉明娟・喚金奇、諸氏との出会いがなければ実現しなかったことです。一人一人との出会いがつながって線となって最後に李先生へとつながっていった。これは留学というものが私にくれた贈り物であり、あらためて感謝しています。






